2024年2月号
東京のみどりと生きるまちづくり
東京都内には、意外にも緑がたくさんあることを知っていますか? 緑は、わたしたちの遊ぶ場所、憩いの場所としての役割はもちろんのこと、色々な生き物のすみかとなって生態系を豊かにし、季節によって表情を変える草木を見て、四季を感じることもできます。さらには、街が排出する二酸化炭素を吸収したり、夏の温度上昇をやわらげたり、生活環境を改善する働きもします。
東京都は今、わたしたちの生活にゆとりとうるおいをもたらしてくれる緑の価値をさらに高めて、みなさんとともに“みどりと生きるまちづくり”を行うため、「東京グリーンビズ」に取り組んでいます。
具体的には、身近な緑や豊かな自然を「まもる」取り組み、自然体験や植樹などへの参加を通してみんなで緑を「育てる」取り組み、緑や自然が持つ機能を豪雨対策や猛暑対策などに「活かす」取り組みです。
東京の緑を100年先につないでいくためには、一人ひとりの行動や参加の積み重ねが重要です。東京の緑について考えてみましょう。
都内に広がる森林
日本は国土の約3分の2(67%)に豊かな森林が広がる、世界でも有数の「森の国」です。都内にも、多摩地域を中心に広大な森林が広がり、都の総面積の約4割が森林になっています。東京都は、こうした豊かな自然を守り、育て、活かし、未来へと残していく取り組みに力を入れています。
都内の森林約8万ヘクタールのうち、約5万ヘクタールは多摩地域にあります。森林の木は木材として家の建設や家具作りなどに使われるほか、実は、わたしたちの暮らしに欠かせない大切な水をためる「水源林」の役割も持っています。さらに、太い根をはって、土が崩れにくいようにもしていて、土砂崩れなどの災害も防いでくれています。
このようなはたらきもする森林には、たくさんの動物や鳥、昆虫たちがすみついて豊かな生態系をつくり、美しい自然は、私たち人間にとっても安らぎを与えてくれます。
都心に増える緑
また、緑は森林だけでなく、都心にもあります。みなさんの中には、意外に感じる人もいるかもしれませんが、都心の緑は、街路樹や公園だけではなく、最近作られたビルや再開発された街の中には、多くの植物が植えられているのです。
2020年に港区竹芝地区に作られた高層ビル「東京ポートシティ竹芝」は、低い階が階段状に広がり、さまざまな樹木が植えられているほか、水田もあります。また、2023年に港区麻布台地区にできた「麻布台ヒルズ」は、「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」をイメージして開発されました。その言葉通りに街の中央部に広場があり、まわりの建物もたくさんの緑に包まれています。
東京都は、このような、民間企業が新しく街を開発するときに、植物の割合を増やし、緑化を進める取り組みを促進することで、都市に新たな緑を生み出しています。草木などの緑が敷地をおおう割合のことを「緑被率」といいますが、千代田区、中央区、港区の開発が進む都心の3区では、この緑被率が増えています。取り組みの積み重ねが、着実に緑化を進めています。
人の手で、豊かな森林を守る「森林循環」
都内の森林の多くは、人の手で守られてきたものです。苗を植え、育て、大きくなると切り取って木材として役立てます。それが「林業」という仕事です。苗を植えてから木がだんだん成長してくると、隣の木との間隔がせまくなって、成長しにくくなります。小さい木ばかりがたくさんあると水はあまりたまらず、根も成長しにくいため土も崩れやすくなります。ですから、木の苗を植えてだんだん大きくなってくると、成長が遅かったり、まっすぐに伸びていなかったりする木を切らなくてはいけません。それを「間伐(かんばつ)」と言い、切った木を「間伐材」と言います。
また、木の枝を伸びっぱなしにしていると、葉がしげって森の中は暗くなります。すると太陽の光が地面まで届かず、若い木や背の低い植物は育ちにくくなります。森林は、間伐し、適切に枝を切り、草などを刈って、太陽の光が十分に地面に届くようにして人が守っていかないと、荒れてしまうのです。木を切ることは、緑を維持、育てることとは、逆のことのように思えるかもしれませんが、豊かな森林を守るためには、苗を植え、間伐など必要な手入れをし、育った木を木材として使うという「植える・育てる・使う」のサイクル(森林循環)を繰り返すことが必要なのです。
東京都では、都民の共有財産である森林を次の世代に引き継ぐため、持続可能な森林循環を確立し、林業の経営力強化を推進しています。
多摩地域の木材「多摩産材」の可能性
多摩地域の木材(多摩産材)は「とうきょうの木」の愛称で、さまざまな用途で使われています。木の苗が木材として使われるまでには、スギで35年以上、ヒノキで45年以上が必要です。現在多摩地域では、苗が植えられてから50年以上たった木が8割以上を占めています。「とうきょうの木」は今がちょうど、“使いどき”を迎えているのです。
▶施設での活用
多摩産材は、人々が集まるにぎわいの施設で利用されています。2018年にオープンした「京王あそびの森 HUGHUG<ハグハグ>」(日野市)では、大型遊具などに多摩産材がたくさん使われ、木の香りに包まれながら木材を身近に感じることができます。「TOKYO MOKUNAVI(モクナビ)」(新宿区)は、多摩産材でできた家具や積み木などの木製遊具を展示し、「とうきょうの木」の魅力を知ってもらうための情報発信をしています。
街がコンクリートばかりだと冷たい感じがしますが、木材がたくさん使われていると、温かみが感じられますよね。
【木造建築の豆知識】
木造の建物は、災害に耐えられるように高さなどが決められていましたが、火事や地震にも強い建て方や木の素材が工夫されてきたことなどから基準が見直されました。そのため主な構造部分に多くの木材を使用した木造のビルを建てることも可能になり、2026年には、日本橋に地上18階建て、高さ84メートルの木造高層ビルが完成予定です。
▶木材をもっと身近に
多摩産材を、もっと身近にしようと取り組む企業があります。「東京チェンソーズ」(西多摩郡檜原村)は、森で育てた木を木材として売るだけでなく、森のめぐみを生活に取り入れ、人々に木材に親しんでもらうという活動をしています。
通常、木材として使われるのは、木の幹にあたる木全体の約半分ほどで、根はそのまま残し、枝や先っぽの細い部分は切られて捨てられるのが普通でした。しかし、東京チェンソーズでは、丁寧に育てた木を全部いかしたい、と「1本まるごと販売」を行っています。枝や、板にならない細い丸太からは、キーチェーン、コースター、はし置きなどを作り、カプセルトイとして販売しています。
また、東京チェンソーズでは、一般の人や子どもたちに木材に親しみ、森林に触れてもらうイベントなども行っています。その一つが学習机を手作りするプログラム。まず森の役割について学び、実際に山で木を切る「きこり体験」もするので、森のめぐみを肌で感じながらものづくりをすることができます。
東京チェンソーズの飯塚潤子さんは、「都心に住む子どもたちは、森が身近にないことがほとんどです。そしてあまり知らないがために『森は怖い』と思われがちです。ですから、森がどれだけわたしたちにとって大切なものか知ってもらうためには、子どものうちから木に触れ、森を身近に感じてもらうことが大事だとわたしたちは考えています」と話しています。
緑や森林を知ろう
緑が少ないと思われがちな東京ですが、実は緑がたくさんあることがわかりましたか? 東京都は、生活のさまざまな場面に緑を取り込み、緑あふれる街づくりを進めています。
あなたも、身の回りにある緑に関心をもち、キャンプやハイキング、自然観察などの機会があれば、こうした体験を通して、森林の役割や緑を守り育てることについて考えてみましょう。
取材協力=東京都産業労働局、株式会社東京チェンソーズ
関連リンク
👉東京都の緑の取組「TOKYO GREEN BIZ」