2023年6月号
「宇宙太陽光発電」JAXAが研究する“未来の再生可能エネルギー”
宇宙で太陽光発電――。そんな夢のようなプロジェクトが、JAXA(宇宙航空研究開発機構) や経済産業省などの国の機関を中心に研究されています。巨大な太陽光発電所を宇宙に浮かべて、1日24時間、昼夜や天気に関係なく大量の電力を地上に送る、究極の再生可能エネルギーとして大きく期待されています。JAXA研究開発部門で、宇宙太陽光発電システム(SSPS=Space Solar Power Systems)の研究をしている上土井大助さんに話を聞きました。
原子力発電所1基分の電力を宇宙で
――宇宙太陽光発電の研究は、いつごろから始まったのですか?
1968年、アメリカの宇宙科学者ピーター・グレーザー博士が唱えたのが始まりです。日本では約40年前に研究が始動し、1990年代に宇宙科学研究所(現:宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)を中心に京都大学などと
――宇宙太陽光発電には、どんなメリットがありますか?
宇宙は広く、大気によって太陽光が弱められることもないため、大きなエネルギーを生むことができます。また、地球上が雨やくもり、夜でも、電波を使えば安定的、効率的にエネルギーを送ることができます。さらに、受けるアンテナさえあれば、送り先を自由に変えることもできます。エネルギーをレーザー光を使って送る方法もあり、今あるソーラー発電所に送って発電することもできます。
――設備はどのくらいの大きさになりそうですか?
どれくらいの規模にするかはまだ話し合っているところですが、原子力発電所1基分(100万kW)くらいの電力を発電できる設備を想定しています。そのためには、約2キロメートル四方くらいの巨大な太陽光パネルが必要で、重さは1万トン以上になりそうです。今、宇宙にある最大の人工的な建造物は国際宇宙ステーションで、幅約100メートルとサッカー場くらいの大きさで、重さ約340トンですから、けた違いですね。
今のロケットで宇宙に運ぶには、何度にも分けて運ばなくてはならず、打ち上げ費用が非常に高くなってしまいます。ですから、なるべくコストを抑えるためには、宇宙太陽光発電システムの部品の軽量化を進めるほか、よりたくさんの部品を運べるロケットや、何回も繰り返し使えるロケットの開発が必要になります。
技術開発では日本がトップクラス
――日本以外でも、研究は行われているのですか?
巨額の建設費用がかかることや、技術的課題解決が困難なことなどから、多くの国では研究が中断した時期がありました。日本だけは、長く継続して研究が続けられており、現段階の技術開発では世界でもトップクラスになっています。
しかしながら、大きな予算と多くの人を集めて短期集中的に研究するアメリカのほか、ヨーロッパ各国でも最近、研究開発を進める気運が盛り上がってきています。宇宙開発に意欲的な中国も猛烈な勢いで力を入れてきています。
各国がしのぎを削るなか、わたしたちJAXAは宇宙に大きな建造物を作るための実証実験をいよいよ来年度から開始する予定です。経済産業省でもエネルギーを送る技術のプロジェクトが進められています。規模はまだ小さいのですが、2025年にアメリカ空軍が、宇宙で発電して地上に送る実験をする準備を進めています。
――どんなことが課題になっていますか?
解決しなくてはいけない問題はたくさんあります。大きな電力を効率的に作る太陽電池技術、無線で地上にエネルギーを送る技術、そして大きな発電所を宇宙に作るための技術などです。研究は長期間にわたるため、途中段階の研究成果を社会に役立て、その上でさらに宇宙太陽光発電の研究を進めていくことを目指しています。
今実際に考えているのは、無線でエネルギーを送る技術の適用先などです。充電設備がない所でも、移動する電気自動車やドローン、ロボット、スマホなどに、手軽に充電できるようになれば便利ですよね。
人類のエネルギー問題を解決?!
――大規模なSSPSで本格的に発電が始まるのは、いつごろになりそうですか?
どのくらいの人とお金をかけるのかで違ってきますが、実用化できるまでには、20年から30年くらいはかかりそうです。日本では、JAXAや経済産業省、京都大学などの大学のほか、民間企業でも関連するさまざまな研究が行われています。産学官が協力しあって研究を進めていかなくてはいけません。
まだまだ難題はたくさんありますが、開発が実現すると人類のエネルギー問題の解決に向けて大きく前進します。みなさんにも興味を持ってもらい、近い将来、わたしたちの研究を引き継いでもらえると、実現はより早くなると思います。