2026年1月号
東京都を支える仕事❽農業などを研究する「東京都農林総合研究センター」
島も山もある東京都では、地域ごとに特色を活かした農業が行われています。ブドウやパッションフルーツなどの果物、コマツナやウドといった野菜など、東京都で収穫できる農作物の種類はさまざまです。ブルーベリーやかわいい花のブバルディアなどは、新しい品種も増えてきています。東京都でつくられている農産物の品種は、どんな人たちが、どのような研究をし、どのくらいの時間をかけて生み出してきたのでしょうか。東京都の農業についてもっとくわしく知るために、東京都農林総合研究センター(立川市富士見町)を訪ねてみました。
より美しく、よりおいしく、より育てやすく 品種開発には20年かかることも…

東京都農林総合研究センターは、東京都の農業や林業、畜産業の新しい技術を研究している施設です。東京都の農業は、消費者に近い立地を活かした「都市農業」と呼ばれています。この施設では、東京都の農業が持つこうした特ちょうに合わせ、新しい品種や、作物を育てる技術を開発しています。たとえば、これまでにないおいしさ・甘さが味わえたり、よりたくさんの収穫量が期待できたり、暑さや寒さに強かったり、病気や害虫の影響を受けにくかったり。そんな品種や育て方を目指した研究が行われています。


日本一の収穫量をほこる東京の農作物が、ブルーベリーです。ブルーベリーは、ひとつぶずつていねいにつみ取って収穫するため、とても手間がかかります。より育てやすく、おいしいブルーベリーを開発するために研究が重ねられた結果、世界初のブドウのように「ふさ」ごと収穫できる品種や、大つぶでおいしい品種が生まれました。新しい品種を作るのに、なんと約20年もかかったそうです。現在、農業分野の特許ともいえる「品種登録」が進められているところです。新しい品種が広まって、実際に食べられる日が来るのがとても楽しみですね。
こうした研究を行っている東京都農林総合研究センターの研究員のみなさん。実は、多くが東京都の職員です。
いろいろな特色ある作物を育てられるまち・東京
「東京の農業に関わる仕事につきたくて、この仕事を選びました」と語るのは、今年センターに入ったばかりの研究員・押野任志さんです。
押野さんは、大学では農学系の勉強をしていました。大学院では、農作物の害虫の研究をしていたそうです。
現在、研究で取り組んでいるのは、伊豆大島でつくられている特産品の花「ブバルディア」です。センターでは、ブバルディアの新しい品種開発に力を入れていて、約10年かけて「東京スター」シリーズ、「東京ダブルスター」シリーズの計8品種を新しくつくり出しました。

💡豆知識💡
「ブバルディア」
メキシコなど中南米地域が原産の花。ブバルディアという名前は、中世・フランスの王様に仕えた医師で、当時の王室の庭園長もかねていたシャルル・ブバール氏に由来があると言われています。東京都内では、1953(昭和28)年ごろに大島でつくりはじめました。本来は秋に咲く花ですが、暖かい大島では、年間を通してつくることができます。数種類の植物を交配するなどして品種改良も進み、赤やピンク、白、グリーンなどさまざまな色のものや、花びらがたくさんあるものもあります。
「どんな肥料や農薬をどのように使うと効果的なのか、最適な温度管理はどうするのか、害虫を防ぐにはどうしたら良いのか、などの作物を育てる工夫や方法の研究は、うまくいけば数年で成果を出すことができます。しかし、新しい品種を生み出すための研究は、長い時間がかかることがあります」と押野さんは教えてくれました。

「めしべに花粉をつけて、タネを作ることを『交配』といいます。ちがった品種をかけあわせることで、これまでにない新しい性質を持った品種をつくることができます。より美しく、個性的な花を咲かせる品種を生み出すためには、根気強く、たくさんの種類の品種を組み合わせていく必要があります。このような研究は、すぐに結果が出ることはありません。ブバルディアの場合は、早いものでも7年くらいかかっています」
押野さん自身が現在取り組んでいるのは、同じ性質を持ったブバルディアの苗を、同時にたくさん作る研究です。葉の根元にある特殊な細胞を、養分をふくんだゼリーのようなものに植えつけ、外部からウイルスや菌が入らないようにして大切に育てます。そうして、同じ性質を持った良い品種の苗を増やしていくのです。

押野さんは、こどものころから植物や虫が大好きだったそうです。高校生から大学生のときには、祖母にもらったランの花を大切に育てていたそうです。「ランは花がすごくきれいで、香りもいい。大学の受験勉強のときには、ランの香りで気持ちを落ち着けることができました」と楽しそうに話してくれました。
「ひとくちに『農業』といっても、南は暑い小笠原諸島から山林が多い多摩地域まで、東京にはそれぞれの特ちょうを持った地形と気候があります。この特ちょうを活かして、いろいろな作物を栽培できるところが東京の農業のおもしろさです。コマツナだったり、トマトだったり、ワサビだったり。伊豆諸島ではパッションフルーツやレモンもあります。多様な特色を持った作物があるのが東京の魅力です」このような思いから、押野さんは東京のさまざまな作物についての研究をしたいと思うようになったそうです。

ここだからこそできる研究・開発分野に挑戦できる楽しみ
東京都農林総合研究センターでは、これまで紹介したもののほかにも、東京都の農産物の研究がいろいろ行われています。
たとえばブルーベリーでは、6~8月に収穫され、市場に出回るものが多い中、9月以降も出荷できる品種や、よりつぶの大きい品種の開発なども進めています。
ウドという野菜も東京都の特産品の一つです。この研究センターでは、より早く収穫できるウドの品種開発にも取り組んでいます。「トマトやキャベツといったメジャーな野菜については、さまざまな企業が熱心に品種改良に取り組んでいます。そういった企業ではなかなか研究が行われない東京特産の作物の開発に取り組み、応援するのも私たちの役割です。このようなところに仕事のやりがいを感じますね」と押野さんは語ります。
最近は、温暖化の影響で、とても暑い時期が長く続く傾向があります。農家の人たちから、夏の暑さに強い品種の開発や、気候の変化に対応できるような育て方を研究してほしいという要望が増えており、センターでは実際にその研究に取り組んでいるそうです。学生時代にランを育てていた押野さん。「コロナ禍で外出できなかった時期に、植物とふれ合う機会が増えたことで、より植物を身近に、大切に思う気持ちが強くなったのかもしれません」と語ります。

東京の農林業、畜産業を支える「東京都農林総合研究センター」の研究員の仕事はいかがでしたか?東京都の職員ならではの視点から、みなさんの生活をより豊かにするために、新たな研究を積み重ねています。研究をする仕事に興味のある人は、学校の勉強や身の回りで「おもしろい!」と感じたことをさらに深く調べてみるのもいいかもしれません。また、今はよく知らないことでも、新しくチャレンジしてみたり、体験したりすることで、これまでにない発見をすることもできます。興味のあることをどんどん増やして、自分の世界を広げていってくださいね。
東京都農林総合研究センターの近くにある国営昭和記念公園では、2026年2月7日と2月8日に、森林や山の仕事を五感で感じられる体験イベント「Woody Wonder World」が行われます。ぜひ参加して、東京の林業を体感してください。


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